資産管理

銀行口座を開設をしてはいけない国

前回の本ブログ記事で、「日本の『Xデイ』が来るのでは?それに備えて海外に銀行口座を持ちましょう」ということを言いました。では日本以外のどの国で銀行口座を持つのが良いのでしょうか?

Googleで「海外」「銀行口座開設」というキーワードで検索をすると、香港、シンガポール、カンボジア、ラオス、モナコ、フィリピンといった国での銀行口座を開設のサービスが検索上位に入ってきます。中には米ドルの預金の高い利子をアピールしているサービスもあります。

わたしたちは、海外に銀行口座や資産を今まで持ったことがない日本人・日本に住んでいる人が、大事な資産を預ける先として、海外で銀行口座を開設をするならば、シンガポールと香港の二択しかないと考えています。

カンボジア、ラオス、モナコ、フィリピンといった国が、数百万円の資金を預けるならばともかく、数千万円を超すような大きな資金を置く場所として、なぜ不適切なのでしょうか?

大事な資産を海外に置くときに考えなければならないのは、

  1. 法律がちゃんとしている。法律や契約書が英語で書いてあるか
  2. 英語でサービス提供されているか
  3. 大きな銀行・信頼できる銀行があるか
  4. 金融サービスが充実しているか
  5. 日本からの距離が近いか

という五つのポイントです。この五つのポイントを全部満たしているのが、香港とシンガポールです。

それ以外の国は、大きなお金を預ける先としては不安です。

カンボジアは1980年代まで、内戦をやっていた国で、ようやく国として安定してきたという状況。ラオスは共産主義国。モナコは日本からの距離が遠すぎます。フィリピンは法律や治安という面で不安です。

今回は、この五つのポイントのうち「大きな銀行・信頼できる銀行」という観点で、もう少し見てみましょう。

銀行の大きさを測る基準には、それぞれの銀行が持っている預金の総額、総資産、純資産などなどいろいろな基準がありますが、今回は総資産で見てみます。

海外の銀行の総資産を見てみる前に日本の銀行の総資産がどれくらいの金額になるのか、見てみましょう。日本には銀行は2023年1月現在で、191行(都市銀行4行、地方銀行99行、信託銀行14行、外国銀行の支店が56支店、その他銀行18行)(金融庁の資料)あります。

このうち、都市銀行と地方銀行の総資産ランキングを見てみます。

日本の銀行(都市銀行+地方銀行)の総資産ランキング

順位銀行名総資産
1位三菱UFJ銀行374兆円
2位三井住友銀行258兆円
3位みずほ銀行238兆円
4位ゆうちょ銀行233兆円
5位りそな銀行78兆円
6位三井住友信託銀行65兆円
7位ふくおかFG(福岡銀行など)29兆円
25位伊予銀行8.5兆円
78位清水銀行1.8兆円
87位鳥取銀行1.1兆円
92位福島銀行0.8兆円

(データ出所:Strainer

日本の地方銀行は小さい銀行でも1兆円くらいの総資産があります。

この「1兆円」という数字を頭に入れて、カンボジア、ラオス、モナコ、フィリピンの銀行の大きさを見てみましょう。

カンボジア

Photo by Florian Hahn on Unsplash

カンボジア最大規模の銀行「アグレダ銀行」の総資産:84億米ドル(2022年9月現在、現在のレートで約1.1兆円
(データ出所:アグレダ銀行の決算情報

アグレダ銀行は2014年に三井住友銀行が筆頭株主になっています’(東洋経済記事)。インターネットでも「米ドル預金の金利が高い」というような触れ込みで、口座開設サービスが宣伝されています。

ところが、アグレダ銀行の総資産規模は、日本の銀行のランキングに並べて見ると、下の方から数えた方が速い第87位の鳥取銀行くらいの総資産サイズしかありません。

カンボジアの銀行ランキング

(資料出所:カンボジア国立銀行(カンボジアの中央銀行)

ラオス

Image by SaigonJoe from Pixabay

ラオス最大の銀行の「BCEL(ラオス外商銀行)」の総資産:87兆キップ(2022年9月現在、現在のレートで約0.7兆円
(データ出所:BCELの決算情報

ラオス民間最大手の銀行の「JDB(ジョイント・デベロップメント・バンク)」の総資産:

12兆キップ(2022年3月現在、現在のレートで約0.1兆円
(データ出所:JDBの決算情報

そのトップのBCELは、なんと日本の銀行のランキングの最下位クラス第92位の福島銀行くらいの大きさしかないのです。

日本からも口座開設が可能ということで宣伝をしているJDBに至っては、1,000億円くらいしか総資産がなく、日本の最下位の銀行以下、信用金庫とか信用組合のランキングでみても50位の広島市信用組合(総資産1兆円)の10分の1の大きさしかないのです。

ラオスの銀行一覧
(ラオスは、国としての銀行のデータの開示度合いも低いため、まとまったデータは古いものしか無いです。)

(資料出所:公益財団法人 国際通貨研究所のレポート

モナコ

Image by Pierre Blaché from Pixabay

モナコ最大の銀行の「バークレイズ(モナコ)銀行」の総資産:13億ユーロ(2022年9月現在、現在のレートで約1.8兆円
(データ出所:TheBank.eu

モナコと言えば世界のトップ富裕層が集まっているイメージがありますが、そのトップの銀行ですら、日本の銀行の第78位の清水銀行のサイズしかありません。

銀行の総資産ランキングを見ると、上位の銀行は全て外国銀行の支店もしくは外国銀行の子会社です。これらの銀行は、最低でも数億円の資金が無い限りは口座すら開かせてくれません。インターネットで日本人向けに口座開設サービスを提供してていますが、その口座開設サービスで銀行口座を開ける銀行は、ランキング上位の銀行ではないことは間違いないです。

モナコの銀行のランキング

(データ出所:TheBank.eu

フィリピン

Photo by Myk Miravalles on Unsplash

フィリピン最大の銀行の「BDO銀行」の総資産:3.7兆フィリピン・ペソ(2022年9月現在、現在のレートで約9兆円

(データ出所:フィリピン中央銀行

フィリピンは発展途上国のイメージが強いですが、人口は1億人を越え、GDPは3,940億米ドル(約53兆円)もあり、シンガポールの3,969億米ドル(約53兆円)、香港の3,940億米ドル(約49兆円)と同じくらいの経済規模があります。これまで見てきた国々のちっぽけな銀行に比べると少し安心できる大きさの銀行がようやく出てきました。

フィリピンの銀行ランキング

(データ出所:フィリピン中央銀行

それでも、海外の銀行口座を維持したり、大きな金額の移動や相続などの大事な手続きをする時には、フィリピンに行って手続きを行う必要が出てきます。相続が発生したときに、自分の子供たちが安全に資産を受け取りに行ける国でしょうか?そういった観点で考えると、あえて海外に資産を置くならば、法制度も未成熟で治安が良くないフィリピンに大きな資産を置くのは、あまりお勧めできません。イギリスの法律を引き継いでいて相続などの法律の手続きもちゃんとしていて、治安も良いシンガポールや香港の方が安心です。

では、ここでシンガポールと香港の銀行の大きさを見てみましょう。

Photo by Sophie Louisnard on Unsplash

シンガポールのトップ3銀行の総資産ランキング(2022年)

  1. DBS銀行 約5,000億米ドル(約65兆円
  2. OCBC銀行 約4,000億米ドル(約50兆円
  3. UOB銀行 約3,400億米ドル(約44兆円

(データ出所:Wikipedia

香港のトップ3銀行の総資産ランキング(2021年末)

  1. HSBC 約9.9兆香港ドル(約165兆円
  2. 中国銀行(香港) 約3.4兆香港ドル(約57兆円
  3. スタンダード・チャータード銀行 約2.5兆香港ドル(約42兆円

(データ出所:KPMG

フィリピンの最大の銀行の総資産の9兆円、カンボジアやラオスの最大銀行の総資産が1兆円前後しかない中、いかにシンガポールや香港の銀行の規模が大きいかがわかります。

日本の銀行の総資産ランキングにシンガポール、香港、カンボジア、ラオス、モナコ、フィリピンの主な銀行を並べてみると、こんな感じになります。

日本の銀行の総資産ランキング

順位銀行名総資産国・地域
1位三菱UFJ銀行374兆円日本
2位三井住友銀行258兆円日本
3位みずほ銀行238兆円日本
4位ゆうちょ銀行233兆円日本
香港1位HSBC165兆円香港
5位りそな銀行78兆円日本
シンガポール1位DBS銀行65兆円シンガポール
6位三井住友信託銀行65兆円日本
香港2位中国銀行(香港)57兆円香港
シンガポール2位OCBC銀行50兆円シンガポール
シンガポール3位UOB銀行44兆円シンガポール
香港3位スタンダード・チャータード銀行42兆円香港
7位ふくおかFG(福岡銀行など)29兆円日本
フィリピン1位BDO銀行9兆円フィリピン
25位伊予銀行8.5兆円日本
モナコ1位バークレイズ(モナコ)銀行1.8兆円モナコ
78位清水銀行1.8兆円日本
カンボジア1位アグレダ銀行1.1兆円カンボジア
87位鳥取銀行1.1兆円日本
92位福島銀行0.8兆円日本
ラオス1位BCEL(ラオス外商銀行)0.7兆円ラオス
ラオス民間1位JDB銀行0.1兆円ラオス

(データ出所:Strainer

せっかく海外に銀行口座を開いて、日本の銀行から送金までして預金をしたのに、「吹けば飛ぶ」ような銀行に大きな資産を資産を置いてしまうことは資産管理の観点からはあまりおすすめできません。せいぜい、このような国には、数百万円程度のお金を送って貯金して、利子をもらって、その国に旅行に行ったときに貯めたお金を使う、という程度にしておくのがよいでしょう。

繰り返しになりますが、日本人・日本居住者が海外の銀行口座を開設するなら、シンガポール、香港の二択になります。

とはいえ、最近はシンガポールも香港も銀行口座の開設が難しくなってきています。それでも、日本人・日本に住んでいる人に対して、シンガポールや香港にて口座開設をする門戸は閉ざされているわけではありません。

希合KYGOでは、過去、香港やシンガポールにて銀行口座の開設や使い方の豊富な経験を有しております。香港やシンガポールで銀行口座開設を希望される方は私たちにぜひ相談ください。

希合KYGO
マネージング・ディレクター
本名正博

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