資産管理

【第5回】なぜウルグアイは外貨を稼げるのか?|牛肉とITの輸出戦略

(写真:ウルグアイの首都モンテビデオのプエルト市場のアサード(炭火焼)レストラン

外貨取引を自由にしているウルグアイは、外貨の流出を恐れて規制を強めるのではなく、どうやって外貨が入ってくる国を作ってきたのでしょうか。

その答えは、当たり前のことを当たり前に実行することでした。
つまり、モノやサービスの輸出で外貨を稼ぐことです。


プレミアム・ビーフ化の推進と輸出振興

例えば牛肉です。ウルグアイは、「牛の数が人口の約3倍、約1,200万頭」と言われるほどの畜産大国です。牛肉はウルグアイの主要輸出品の一つであり、生産される牛肉の多くは海外に輸出されています。実際、ウルグアイの牛肉生産の約8割は輸出向けとされています。

世界市場で外貨を稼ぐためには、ただ「美味しい」だけでは不十分です。EUや北米など、食の安全や品質に厳しい市場で選ばれるには、その牛肉がどこで生まれ、どこで育ち、どのように流通したのかを説明できることが重要になります。

ウルグアイは、2001年の口蹄疫発生により、牛肉輸出国として大きな打撃を受けました。この経験を踏まえ、2006年には、肉牛の個体識別タグとデータベースによる全頭トレーサビリティを義務化しました。

これにより、牛の出生、飼育、移動、処理の過程を追跡できるようになりました。輸入する側から見れば、これは単なる管理システムではなく、「安心して買える牛肉」であることを示す信頼の証です。

その結果、ウルグアイ産牛肉は、単なる南米産の牛肉ではなく、品質と安全性が見える「プレミアム・ビーフ」として評価される土台を築くことができました。

つまり、ウルグアイはトレーサビリティを単なる衛生管理ではなく、牛肉を高付加価値化するための国家的な輸出戦略として活用したのです。

(動画:「モンテビデオの台所」プエルト市場で食べるアサード(炭火焼き肉))

アルゼンチンも、世界に名だたる畜産大国であることは間違いありません。しかし、約4,600万人の国民にとって、牛肉は単なる輸出商品ではなく、食卓を支える「主食」そのものです。その存在は、日本人にとっての「お米」に近く、「牛肉の値段が上がる」ことは政権の命取りになりかねません。

その結果、政治家は大衆迎合的(ポピュリズム)な政策に走り、輸出を強権的に制限してでも国内への安価な供給を優先してきました。世界市場で外貨を稼ぐことよりも、国内価格を抑えることが優先されたのです。(この点は日本のコメにも少し似ています。)

対するウルグアイは、人口が少ない「小国」であるからこそ「外の世界に売る」しか道はありませんでした。急に輸出を制限すれば、これまで買ってくれた顧客の信頼感を失う。そしてそれは小国であるウルグアイにとっては致命的になりえる、という危機感があったからこそ、アルゼンチンとは対照的に、輸出に制限をかけることをせず、むしろ輸出を優先させました。

正直に言うと、ウルグアイを訪れるまで、私もウルグアイ産牛肉がここまで評価されていることを知りませんでした。


アルゼンチン産牛肉より評価が高いウルグアイ産牛肉

そこで香港に戻ってから、アルゼンチン産とウルグアイ産の牛肉を扱う店で実際に確認してみました。すると、ウルグアイ産のサーロインは1キロ448香港ドル(約9,000円)、アルゼンチン産のリブアイは1キロ385香港ドル(約7,700円)で販売されていました。

(写真:香港の店頭で売られていたウルグアイ産のサーロイン(左)とアルゼンチン産のリブアイ(右)

通常ならリブアイの方が高くなりやすいにもかかわらず、店頭ではウルグアイ産サーロインの方が、アルゼンチン産リブアイより高く売られていたのです。もちろん、これだけで両国の牛肉全体を比較することはできません。それでも、ウルグアイ産牛肉が、品質と信頼に価格がつく商品として扱われていることが感じられました。


IT教育とIT企業の誘致

外貨を稼ぐ、という点では、畜産業だけではありません。
ウルグアイはIT産業でも、国外から外貨を稼ぐことに力を入れています。

ウルグアイは近年、南米有数のソフトウェア輸出国となっています。ナスダックに上場したユニコーン企業、dLocal (NASDAQ: DLO)もウルグアイから生まれました。

この背景にあるのが、教育への長期的な投資です。

ウルグアイは、1人1台のPCを無償配布する「セイバル・プラン」により、子どもの頃からデジタル技術に触れる環境を整えてきました。小国でありながらIT人材を育て、世界に向けてサービスを提供する基盤を作ってきたのです。

また、ウルグアイは海外IT企業の誘致にも力を入れています。マイクロソフトは2023年、上海、ミュンヘンにつづいて、モンテビデオに「中南米初の人工知能ラボ」AI共同イノベーション・ラボを設立しました。

外貨を稼ぐために、人材を育て、国内企業を育て、海外企業も呼び込む。
ちゃんと外貨を稼いで、ちゃんと経済を回す。
当たり前のことを当たり前にやっているのが、ウルグアイなのです。


外国に移住したウルグアイ人の活用

ウルグアイの学ぶべき点として最後に挙げたいのは、国外に住む自国民を「国を捨てた裏切り者」ではなく、世界中に散らばる「アンバサダー(大使)」として戦略的に活用しようとしている点です。

象徴的なのが、国家研究イノベーション庁(ANII)などが進める「グローバル・タレント・ネットワーク」の構築です。かつての経済危機で国外へ渡った優秀なエンジニアや起業家たちをデータベース化し、国内のスタートアップとマッチングさせる「ビンクラシオン(Vinculación、絆)」の政策を推進しています。(ANIIウェブサイト

外国に移住した起業家やエンジニアが外側で培った最先端の知見や資本、そしてグローバルな人脈が、今のウルグアイのIT立国としての発展を力強く支える仕組みを作ったのです。

人材の海外への移住を「頭脳流出」と嘆くのではなく、デジタル時代のウルグアイの経済を支えるネットワークとして再定義する。この合理的な知恵こそが、小国ウルグアイの真骨頂と言えます。

ここまで、ウルグアイという小国が、制度への信頼、通貨の自由、輸出産業、そして国外人材とのつながりを通じて、自国をどう守ってきたのかを見てきました。

では、そこから私たちは何を学ぶべきなのでしょうか。

次回、それをお話しします。

TOP