(写真:南米の富裕層が集まるウルグアイのプンタ・デル・エステにある、絶景のアトリエ・ホテル「カサプエブロ」)
前回、国の制度(年金・社会保障)への信頼がウルグアイにはある、という話をしました。
一方で、彼らは制度を信頼しつつも、「国家がすべてを守ってくれる」とは考えていません。
制度は信頼する。でも、自分の資産を守るのは自分自身。これは隣国の度重なる経済危機を間近で見てきた小国の人々が、痛みとともに身につけた知恵です。今回はそういうウルグアイ人の資産を守る知恵についてお話します。
スーパーマーケットの買い物はペソ、不動産・自動車は米ドルで取引
ウルグアイの滞在中に、気づいたのは、スーパーマーケットの棚に並ぶ商品は、価格表示がウルグアイ・ペソなのに、街の不動産屋に掲げてあるアパートの値段や、車のディーラーに置いてある車の値段が全部米ドルだったことです。

(写真:ウルグアイのスーパーの棚はウルグアイ・ペソ(習慣的に$マークがついているが、ウルグアイ・ペソ建て)。1ウルグアイペソ=約4円(2026年1月現在)、野菜酢漬けの瓶詰が約800円なので、物価は安くない。)

(写真:不動産の広告。米ドル(US$)建てで表示されている。407㎡のマンションが約200万米ドル。)
不動産や車などの高額取引はすべて米ドルを使う一方、日々の買い物にはペソを使う、というのがウルグアイの日常です。
なぜ、このような二重通貨体制になったのでしょうか?
過去「小国」ウルグアイの経済は、隣の2つの「大国」、アルゼンチンやブラジルの金融・経済危機のあおり受けて来たということを前々回で話しました。ウルグアイは、21世紀に入ってからも、2002年にアルゼンチンの経済危機とブラジルの通貨安をきっかけに、アルゼンチン人が米ドルの引き出しをするためにウルグアイの銀行に殺到し、取り付け騒ぎからウルグアイの銀行が破綻してしまいました。
実は、そういう大国の経済危機の津波から資産を守るウルグアイ人の知恵が、高額資産は米ドルで持つ、ということなのです。
政府を必ずしも信用しないガウチョの文化
モンテビデオ市内にある「ガウチョと通貨の博物館(Museo del Gaucho y la Moneda)」の展示に象徴的な展示がありました。
19世紀にアルゼンチンのハイパーインフレに苦しむ、(当時はアルゼンチンの一部だった)ウルグアイのガウチョ(牧畜に従事していたスペイン人と先住民の混血の「カウボーイ」)が、アルゼンチンの発行した紙幣をタバコの巻紙として使っていたことを示す吸い殻が展示されていたのです。

(写真:モンテビデオ市内の「ガウチョと貨幣の博物館」の吸い殻の展示。巻紙に価値の無いアルゼンチンの紙幣が使われている。説明の日本語訳「『良質』な通貨を重んじた東方州(現在のウルグアイ)の人々は、ブエノスアイレスが発行した『約束(紙幣)』を信用せず、これら初期の紙幣をタバコの巻き紙として使ったほどでした。」)
外貨取引は自由なウルグアイ vs 外貨取引が規制されているアルゼンチン
日常の買い物はウルグアイ・ペソで取引、不動産のような資産は米ドルで取引がされることが一般的な「二重通貨体制」のウルグアイですが、ウルグアイの「小国」としての知恵の一つが、外貨の取引に制限をかけなかったことです。街中でもあちこちに両替所がありますし、銀行ATMでは、ウルグアイ・ペソだけでなくて、米ドルが引き出せます。

(写真:ウルグアイの両替所の看板。アルゼンチンペソのレートに注目!)
隣国アルゼンチンでは、自国の米ドル等の外貨の流出を防ぐために、アルゼンチン・ペソから米ドルへの交換に厳しい制限を設けています。外貨取引を制限したアルゼンチンでは、公定レートと闇レートの2つのレートが併存することになりました。
これにより、アルゼンチンではまともに商売をする人が損をし、資産が政府や政治家に吸い上げられるという経済の歪みが常態化してしまいました。
アルゼンチンの政府や政治は、「大国」であるアルゼンチンは、自国内の取引は自国の通貨アルゼンチン・ペソであるべき、というメンツがあったのかもしません。それ以上に、政府や政治家からすれば、自国の通貨を発行することによって得られる利益(1万円の紙幣を刷るコストが20円なのに、1万円の価値があるお金として使える。1万円と20円の差額9,980円が政府の「利益」)が大きいからかもしれません。
ウルグアイは、小国であるからこそ、自国内の取引では自国通貨を使うべき、というメンツを一部捨て、人々に外国通貨を自由に使わせているのは、アルゼンチンのように自国の通貨にこだわり、割高な公定レート(アルゼンチン・ペソが割高なレート)を導入するなどの『嘘』が国を滅ぼすことを、隣国の失敗から痛烈に学んでいるからなのです。
では、ウルグアイは外貨取引を自由にして、どうやって外貨の流出を防いでいるのでしょうか。
欧米や日本のような先進国では、基本的に外貨取引は自由です。しかし世界の多くの国、特に新興国や発展途上国では、過去に外貨不足から金融危機に陥った経験があります。
そのため、「外貨が入ってくるのは歓迎するが、外貨が出ていくのは歓迎しない」という姿勢を取り、海外送金や外貨交換にさまざまな制限や手続き上のハードルを設けている国も少なくありません。
例えば、アジアで外貨取引の制限が分かりやすい国の代表は中国です。中国では、個人が人民元を外貨に換える場合、原則として年間5万米ドル(現在のレートで約800万円)という枠が設けられています。それを超える送金や外貨取得には、別途の説明や許可が必要になります。
また、東南アジアでも、1997年にタイから始まったアジア通貨危機の記憶は今も大きく残っています。タイなどでは、表向きは外貨取引や海外送金が認められていても、実務上は銀行から送金目的や契約書、請求書などの確認資料を求められることが少なくありません。
つまり、制度上は「送金できる」とされていても、実際にはスムーズに外にお金を出せるとは限らない国が多いのです。
では、外貨送金を自由にしたウルグアイはどうやって、外貨が流出していくのを防いでいるのでしょうか?そこにも「小国の知恵」がありました。
外貨を法律で縛り付けるのではなく、外貨が自然に入ってくる国になればいい——ウルグアイはそう考えました。そのために選んだのが、自分たちの強みである牛肉などの一次産品を、「ただの輸出品」ではなく世界の富裕層に「選ばれるプレミアム品」へと磨き上げる道だったのです。
次回は、小国でありながら農畜産品を世界に輸出し、品質と信頼で価値を高めてきたウルグアイの戦略についてお話しします。